宇野功芳のオーディオ観Part2 『ステレオのすべて’95』記事紹介編

オーディオ

取り寄せた資料のほとんどは、『サウンドトップス」なのだが、考えさせられたのは、
『ステレオのすべて’95』の記事だった。
まず、ざっと記事を紹介したい。

この企画は、「ワルターの録音(ステレオ録音)を3つの再生装置で聴き比べるというもの。
きっかけは、宇野さんが、知人宅で、ワルターのブルックナー4番を聴いたところ、ひどく音がよくなかった。
宇野さんも、「その時は、ひどい音でワルターが鳴っていた。とても古臭い録音にきこえた。その装置だと演奏までわるく聴こえた、」と冒頭述べている。

このエピソードは、宇野さんが、晩年よく述べていたもので、おそらく福島章恭さん宅でのエピソードだと思われる。
福島さんの装置、スピーカーは、神木とかいうDynaudioの大型スピーカー。
この時きいた、ワルターのロマンティック(ステレオ)は悪かったという。
逆に、福島さんが勧めるアーノンクールをかけたら、宇野さんは、自分の好みではないが、これはこれで、新しいスタイルとして、認める気になった、と何処かに書かれていた。

話を戻すと記事では、ワルターの再生に向いた装置を、現役(95年)モデルの中からチョイスしようという企画だ。
流れとしては、以下。

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1)導入 問題提起

2)今日的リファレンスシステム(B&W801Ⅲ 他)で、ワルターを聴く。

3)ワルターのベスト再生をめざす組み合わせ。
菅野正敏というオーディオに詳しい方(今は、アクロリンクの社長の模様)の選定した機材(ATC-SCM100他)で、ワルターを再生する。

4)金子英男さんによる、ワルターにベストマッチング組み合わせ(ロジャース Studio7 他)でワルターをきく。

5)まとめ

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以下、順に紹介してゆく。

まず、1)では、冒頭で述べた、ワルターは録音時期が幅広く、よい状態のステレオ録音もある。
にもかかわらず、友人宅で聴いた音はよくなかったというエピソードが語られる。

2)今日的リファレンスセット(B&W801 Ⅲ)でワルターを聴く

ここで、宇野さんの音質への言及はないが、金子さんが古い録音を新しい装置でかけた場合のギャップについて述べている。

金子 それがどんどん装置のほうはワイド化されていっちゃったものですから、そうすると、どうしても平面的で、無表情の音になってしまう。

特筆すべきは、対談中相前後して語られるのは、金子さんによる、昔と今の録音についての考え方の違いの指摘だ。おおわく、以下のようにまとめられると思う。

昔は、デッドで「音像中心の録音」であると。
今みたいに周辺の細かい音はとれないけれども、音像だけは、表現の動きは非常によくわかるということになるのでしょうね。」と述べている。
これは、自分の皮膚間隔でも首肯できる。
じっさい、むかしのワルターの録音現場の写真などみても、モノラル期ならオケのすぐ上や、指揮者のすぐ近く、3つくらいのマイクでとっている。
ホールのエコー、空気感など、もともと入っていないのだ。正確にいうと、入っていても二の次。重視しない。

(人間の耳は優秀で、1930年代のワルターの録音でも、「お客のいないムジークフェラインの豊かな残響」など、モノラルでも残響の有無は分かってしまう。)

もっと古いクライスラーのコンチェルトなど、クライスラーしか入っていない感じだ。これが金子さんのいう「音像重視」ということなのだろう。

対して、今の録音の主流の考え方は、「ホールの残響含めた録音」であると。

金子 ~ 今の最新の録音にはぴたりと合っている。つまり、余計な音は徹底的に抑えています。ですからソースに入っているエコーを出してくる。そこまでいけば、やはり空気感が出てくるんです。

宇野 なるほどね。

まとめるとこうなるか。

昔の録音音像中心で、デッド。
今の録音残響も取り入れる、空気感なども収録。

B&Wの項で、音質への言及はないと書いたが、こういう感想はもらしている。

宇野 それに今の装置で聴くと、コロンビア交響楽団の人数が少ないというのがわかってしまいます。

金子 そうですね。ですからそれをわからせないようにするのは、今、菅野さんが、これからやってくれる実験で証明してくれるでしょう。

「わからせないようにするのは」と金子さんが述べている箇所で、自分は吹き出してしまった。アラをかくす、ようなニュアンス。

2)ATCでの組み合わせで聴くワルター

このケースで、宇野さんはあまりピンと来なかった模様。

───(編集部) 宇野さん、いかがですか、聴いて。

宇野 僕はさっきの装置よりこのほうがいいとは思うけれども、ただうちのワーフェデールのほうがやはり全然いいというか、無理がないんですね。僕の装置で聴くと。これは昔のCDを何とかよくしようという感じに聴こえるな。どっかに無理がある。

僕個人の経験だが、ATCのスピーカーは、音場をひろげるタイプではなく、今のSPの中では、演奏家の音像をくっきり描くタイプだと思う。簡単にいうと、オンマイク気味に聴こえる性質をもつ。その意味で菅野さんのチョイスは理解できるのだが…。

3)ロジャース スタジオ7での再生。
これは、宇野さんは、ドンピシャと感じた模様。

宇野 僕は今までのスピーカーの中でこれが一番、色づけがなくて、好きです。要するにワルターの演奏を批評するという立場に立つと、これが一番よくわかる。前のは、音質自体はたしかに高級だけれども、なんか音がすっきり抜けないというか、低音のほうにもやついたようなものがあると感じます。
僕はオーディオは素人でよく分からないけど、これが一番気楽に明快に聴こえたように思うのですが、どうなのでしょうか。

宇野 それはやはり高級なアンプで鳴らしたほうがいいけれども、だけど僕はスピーカー自体が、色づけがなくて、いいように思ったのは、あまり個性がなくて、、、

金子 インプットに対しては、そのまま出してくるタイプのスピーカーですからね。

宇野 そんな感じがしますね。これだったら、ワルターが誤解されることはないように思います。

さらには、「確かに、これは割り切れた音ですね。これ以上、出ないという感じがしますよ」と大絶賛だ。

ただ残念な記述もある。
それは金子さんのコメント。

金子 はじめに申し上げたとおり、今の再生装置でワルターの条件にぴたりというようなものは不可能に近いわけですよ。昔のその当時のことを考えたら、その中で、幾つかポイントをできるだけクリアしているということです。それは、温かみとか、音の厚みとか、豊かさとか、、、

95年当時で、ワルターのステレオを再生できる機材がほぼ、ないとは、まことにつらい。この点は後にふれる。

金子 ロジャースのスタジオ7を選択したのは、中低域から下の音がわりと豊かに出るからです。それでいて量感もある程度あります

宇野 いい音ですね。

この中低域から下の音が豊かというのは、いつも宇野さんが、SPについて記述するさいに述べていることと重なる。後にふれたい。

5)まとめ

宇野 最後に最新録音のブーレーズのストラヴィンスキーを聴いたのですけど、やはり素晴らしい音が、楽に出てきて、それに、ぴったり焦点が合っているという感じがしました。
つまり今のアンプやスピーカーは、今の音が合っているといいますか、ワルターはやはり無理して鳴っているというのを、どうしても僕は感じてしまうのですが…。

再生装置と音源の時代的ギャップというのは、ワルター以外でも、つきまとう永遠のテーマかもしれない。ブーレーズを古い装置で聞く場合だってあるだろうし、むずかしい。

宇野 僕のうちはそんな差がないですよ、ワルターと、現代のCDと。

これも、自分はある仮説を持っている。人間の耳の特性だ。

金子 最新録音のすばらしいものは、今のシステムで聴くと、現代の枠の大きさを感じますし、再生するソース側も、大体マッチングはとれていますが、やはりワルターの場合は、周辺とのすき間を感じてしまいますね。

宇野 それはすごく感じる。

最後に宇野さんは、トーンコントロールなり、音を操作するものが欲しい、と述べ、金子さんは、使いこなしの重要性をといて、対談は終わる。

だいたい、主要論点はおさえられたと、思う。それにしても有意義な企画だったと思う。金子英男さんの用語もなんとなく分かってきた。

次の項目では、この企画で、感じたこと、考えたこと、仮説を書きます。

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