すっかり、記事があいてしまった。
申し訳ない。
宇野功芳のオーディオ観のPart3。
前回は、『ステレオのすべて』の記事紹介まで行った。
ここで、自分の仮説を紹介したい。
仮説の話しをして、その観点をふまえ、どういうふうに先の記事が読み取れるか、に切り込んでみたい。いわば補助線だ。
その仮説とは「耳のフォーカス特性」だ。
人間の耳は、その人が、フォーカスしたいポイントに耳がいく、ということだ。
同じ演奏会を二人並んできいても、演奏の感想が違う、ということはないだろうか?
自分は、アマオケの人とオーケストラを一緒に聴いた時、たとえば、オーボエ奏者なら、その人はオーボエにフォーカスしてきく、感想を述べるということがままあった。
これはその人のバックグラウンドの数だけ違う。
ある時、ブルックナーの演奏会の後、居酒屋で待ち合わせた人と会うと、真っ先に「版は何だったの?」と即聴きされた。
この人にとっては、演奏より、楽曲構造や、版のプライオリティーが高いのだと思う。
今から一例紹介したい。(もう一つ、「オーディオデザイン」の例は別の機会に紹介する)
一つは、傅信幸と村上春樹の例だ。
傅さんは、自他ともにみとめる、ステージ、音場重視する人だ。
むかし、アポジーのカリバーシグネチュアを使っていた。
音源、録音もステレオイメージが入っている、音場がふわっとした音源、音楽を好む。
ところが、村上春樹は、圧倒的に、演奏家中心で、50年代などのジャズを好む。
こういう音(ヴァン・ゲルダーなど)は、SP期のクライスラーと同様、もともと、音場情報がそもそも入っていない。
ある時、村上春樹がオーディオを買い替える参考にしたいということで、傅さんが村上春樹をオーディオショップにつれていった。
傅さんは、村上さんの持参した音源をきいて、音場がそもそも入っていない、と述べていた。
結果、村上春樹は、今だに、音場が目に見えるオーディオ装置でなく、古いJBLで聴いている。
簡単に述べると、リスナーにも二種類あるということだ。
A)演奏家がなにをやっているかを聴きたい音像派(音楽ファン)
B)ステージが目に見えるようにききたい音場派(オーディオファン)
(実際のリスナーは、これらが、8:2とか、4:6とかのミックスだと思う)
傅さんは、演奏家の動きだけではなく、演奏されている残響ふくめたものをききたい。重視する。
村上さんは、ポール・チェンバーズがどう演奏しているか!をききたい。そちらに耳がフォーカスする。
極端にいうと、村上さんにとって、残響があることは、むしろ害なのだ。
宇野さんが、ムジークフェラインできいたマタチッチより、文化会館の方が、細部が分かってよかった、と述べていたことがある。(音楽現代)
ムラヴィンスキーの演奏も、ムジークフェラインできくと細部がぼやけ、文化会館の方がよかった、ということと、同じ、近い現象なのだ。
「響きの質」としては、ムジークフェラインが上であるにも関わらず、「演奏家がなにをやっているか!」という観点からすると、文化会館の方がよかった、ということなのだ。
オーディオでもこれが当てはまるのでは、ないだろうか?
こういうリスナーのバックグラウンド(価値観)の違いがあるので、オーディオ機器の評価(いや、音楽の評価も)はむずかしい。
以上の考察を踏まえると、宇野さんが、
「僕の家では、ワルターと最新の演奏に差がない」や、「ワルターの演奏を批評するという上で、今までのスピーカーより、ロジャースが一番いい。」といった感想も読み溶けるのではないだろうか。
演奏家の意図を知るには、音像型の録音(前回記事の金子さんの発言参照されたい)+音像型のスピーカーが向いているのだ。
そして、その嗜好、志向に向いたスピーカーは、『ステレオのすべて』の記事の中では、ロジャースであった、ということではないか。
その観点からすると、98万のATCより、120万のB&W 801Ⅲより、28万のロジャースが一番ピッタリ来た、ということではないだろうか。
だからあのオーディオ記事は、「オーディオ評論家」ではなく、「演奏評論家」(演奏家が何をやりたいか)である宇野功芳ならではの感想なのではないだろうか。
それと同様に、村上春樹も、ポール・チェンバーズの「ゴリッ」がわかるのは、音場型SPでなく、古いJBLたったのだろう。
従って、
「僕の家では、ワルターと最新の演奏に差がない」という時の、宇野さんの自宅スピーカー(GoodmanのAxiom80と、Wharfedaleのウーファーとツィーター)も、間接音成分が少ない、リアルな音像表現を得意とするスピーカーだったのではないだろうか。
すくなくとも会場の空気感や空間を伝えるタイプのスピーカーではないと思う。(実際に聴いていないので、ハズレかもしれない。)
宇野さんが推薦するスピーカーを見てみると、得心がいく部分があると思う。
ロジャース スタジオ7
ハーベス HLコンパクト(旧型)
DALI メヌエット
Wharfadale super 8
JBL 250Ti (これは今回取り寄せてはじめて分かった。サウンドトップス23号)
DALIは新しいが、どれも設計思想としては古めのものだ。
ロジャースのスタジオ7、ハーベスのHLコンパクト。
Wharfadale super 8、これは僕自身使ってみて分かったが、間接音成分が少なく、演奏がオンマイクにきこえるのが、特徴。
だから、「演奏家がなにをやりたいのか」が非常によく分かった。
最後のJBLのみ、聴いたことがない。宇野さんが
「だいたい僕は自分のスピーカーに満足していて、他のもので今まで感心したのは、たった一機種、JBLの250Tiだけである。これははっきりいって、自分のスピーカーより上だと思った」(サウンドトップス23号)と述べている、一度は、聴いてみたいものである。ネットでデータを見るとかなり巨大。
ただこのスピーカーも、メーカーや構成から推測して、音がスピーカーのうしろにひろがったり、音場が目に見えるといったタイプのスピーカーでないことは、間違いないと思う。
話しはいろいろ脱線したが、自分が『ステレオのすべて』から感じたことは、「演奏家の動き、やりたいことがわかるスピーカー」は、オーディオ評論家がほめるスピーカーとはまた違う、ということだ。オーディオ評論家は、新しくてよい録音状況の音源をレファレンスにするし、それにマッチしたスピーカーを推薦する。しかし一般の音楽ファンは、ワルターやフルトヴェングラーもきく(実際、レコード芸術の人気投票でも上位だ)のだから、その辺り、評論家や、雑誌社は勘案してほしいと思う。

宇野さんが、「唯一自宅より上だ!」と感じたスピーカー JBL 250Ti。ウーファーは、38cm。でかい!
注記 宇野さんが、弟子の有山麻衣子さんのために、秋葉原にDALIを買いに行った記事。→https://www.kinginternational.co.jp/uno/000024.shtml


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